マックス・U-18大賞
マックス・U-18大賞 < 高校生の部 >
さくらさん(和歌山県 / 18歳)
私は兄と6年間口をきいていない。
口をきかなくなった原因はささいなことで、今ではそのきっかけも思い出せない。
そんな兄と6年ぶりに会話した。大学のオープンキャンパスに行くために東京に住んでいる兄の家を訪ねた時のことだ。兄と私と弟。両親抜きの三兄妹だけで過ごすのは、幼い頃、祖母の家へ遊びに行って以来であった。久しぶりに過ごすその空間は少し息苦しくしばらくは沈黙が続いた。そんな沈黙をやぶったのは兄のほうだった。「さくらはどの学部を受けるん?」兄に名を呼ばれたのは久しぶりだった。「……看護」「看護か。やったらはよ行かなあかんな。」
私は正直とても驚いた。あれだけかたくなに私を避けていた兄が自ら私に話しかけてきたからだ。私は兄のことを嫌いではない。むしろ大切な兄妹だと思っている。だからこそ話せなくなってしまったことをさみしく思っていた。
大学へ向かう道を少し前にいる兄の背中を追いながら歩く。決して広くはないその兄の背中を見つめながら考える。いつかまた小さい頃のように話せる日はやってくるのだろうか。兄は振り向かずにどんどん私を置いていく。それがどことなく心の距離を表しているようで、まだ少し時間がかかりそうだな、そんなことを思った。いつか並んで歩けるくらいにはなりたいな。兄に置いていかれぬように必死に後を追った。
マックス・U-18大賞 < 中学生の部 >
ななさん(大阪府 / 15歳)
静かな電車の中で、私たち二人だけがけたけたと肩を震わせていた。私は友だちのNとある一枚の写真をみていた。その写真はクラスメイトの変顔を写したもので、笑わせるのが得意な彼の写真は見事に私たちのツボに入ってしまった。周りの方々はみんな静かにしているため大声で笑うことはできない。が、その状況だからこそ余計に、腹からこみ上げる笑いが止められなかった。その時、駅で、一人の仕事帰りであろう六十代くらいの男性が乗車してきた。その時もずっと笑っていた私は、男性の視線を感じ、注意されるものだと思っていた。しかし男性はすぐに顔を緩め、
「あんたら何がそんなに楽しいんや」
と言って笑った。中学生か、高校生か、と聞かれたので中学生ですと答えると、男性は遠い昔をなつかしむような目をしてにこっと笑ってくれた。そして、
「その時期はなんでも可笑しいときやなあ。大事にしなさいよ。」
と言って降りていった。
あの時のことを、私は今でもはっきり覚えている。そして、ずっと心にとどめている。大事にしなさい、と笑った男性のように、私もなれるだろうか。おそらく、今を大事にした人だけがあのような人になれるのだと思う。今という時間を大切にしようと、心からそう思った。
マックス・U-18大賞 < 小学生以下の部 >
みーさんさん(大阪府 / 10歳)

「明日、二人でお出かけしようか。」
お母さんのとつ然のてい案に大喜びしながら、実は少しおどろきました。三人姉妹のまん中の私は、遊びに行くのは、だいたい姉妹のだれかといっしょだからです。お母さんと私だけで遊びに行くのは、めずらしいことでした。
中学生の姉とようち園生の妹はおばあちゃんがお世話係。その日私はお母さんをひとりじめしました。お買い物をして、映画を見て本屋さんにもよりました。楽しい時間がどんどんすぎました。そして、おやつを食べている時にお母さんが言いました。
「妹になったり、お姉さんになったり、いつも三人のつなぎ役ありがとう。」
なかなか主役になれない、まん中の気持ちをお母さんはちゃんと分かってくれていました。姉や妹をうらやましく思う気持ちが、すっと消えてなくなりました。そういうお母さんも家族みんなのつなぎ役をとっても楽しそうにがんばっています。考えてみれば、姉も妹も経験できるのは、まん中の私だけ。お母さんを見習って、楽しくつなぎ役をがんばろうと思いました。