MAX engineered for performance

革のホッチキス誕生ストーリー01

「カバンの街」に
新風を吹き込むクラフトマンとのコラボから生まれた
「革のホッチキス」

Maison Def(メゾンデフ)下村 浩平さん

“伝説のカバン職人”に引き寄せられるように
国内最大の生産地・豊岡市へ

1200年以上前、奈良時代に生産されていた柳行李を起源に持ち、国内有数のカバンの生産地として発展を続けてきた兵庫県豊岡市。市内には現在も180社以上のカバン関連企業があり、OEM生産を中心に豊岡製のカバンは市場の8割近くを占めると言われている。

2005年には市内の中心商店街にカバン関連のショップが14店舗、軒を連ねる「カバンストリート」が誕生。その一角で自社ブランドを展開し、カバンを中心に独自の世界観のラインアップを発信して注目されているのが「Maison Def(メゾンデフ)」代表の下村浩平さんだ。

“メゾン”という名前を冠したのは、下村さんがリスペクトしているエルメスのように品格を持ち、ライフスタイルを発信できるブランドを目指したからだという。そして、メゾンと呼ばれるブランドはバッグが基盤を成していることから、カバンづくりを志した下村さんは、生まれ育った福岡を離れて豊岡の地を目指すことになる。

「たまたま手にした本で、植村美千男さんという“伝説の職人”の存在を知ったんです。この方が仕事をしている豊岡市でカバンづくりを始めようと思いました」

2010年、豊岡市のカバンメーカーに就職するために現地を訪れた下村さんは、その足で伝説の職人の元を訪れ、ものづくりの気構えをたずねたという。

「カバンづくりで大切なのは、表面的なデザインや縫製じゃない、強度や素材の特性を学ばなければならないんだと教えてもらいました」

職人の世界というと手作業の鍛錬を重ねるイメージがあるが、良いカバンを作るためには、適材適所に素材を用いるための化学や物理、そして強度を保つための建築的な要素など、幅広い知識が必要だと言われたのだ。

「植村さんの教えに従って、色々な知識の吸収に努めてきました。お話を伺ったのは15年近く前ですが、今でもはっきり思い出せるくらい、あのときの言葉は響いています」

就職した会社でカバンづくりを基礎からマスターした下村さんは2017年に独立して自らの工房をオープン。2020年からはカバンストリートに「Maison Def」の店舗を構えると、他店と一線を画した世界観を持つラインアップが高い評価を得て、気鋭のクリエイターとして注目されることに。

昨年1月にはパリで開催された世界最高峰のインテリア&デザインの展示会「メゾン・エ・オブジェ」に出展した。そこで、「革のホッチキス」誕生の出発点となるマックスとの出会いが待っていた。

愛用のフルメタル仕様
ホッチキスがつないだマックスとの縁

パリの展示会で下村さんが出会ったのは、マックスで商品企画を担当するスタッフたちだった。SDGsへの取り組みを進めるマックスでは、環境と未来に配慮した素材を使用した「Re:max」シリーズを展開。バイオマスプラスチックを本体カバーに採用したサステナブル対応モデルのホッチキスなどを企画中だった。サステナブルな材料を用いながら地場産業の発展に寄与し、地域の活性化につながるコラボ商品の開発を模索していた。

パリを訪れていたマックスの担当者たちにとって、国内最大のカバン生産地・豊岡市からオリジナリティ溢れるブランドを世界に発信している下村さんは注目に値する存在として映った。

展示会の場でマックスから声をかけられた下村さん。実は日頃から愛用しているホッチキスがあった。アルミ素材を使用、洗練されたデザインが特徴のフルメタル仕様ホッチキス「HD-10X」だ。

「老舗のメーカーがこんなに独創的なホッチキスを作るのかと衝撃を受けて、すぐに購入して事務用品として使っていたんです」

フルメタル仕様のホッチキス「HD-10X」

バッグブランドのクリエイターと文房具メーカーの担当者。通常なら接点を持つ機会を得ることのない両者の距離を縮めた1本のホッチキス。その商品開発に携わったのはパリを訪れ、下村さんに声をかけたマックス商品企画のスタッフたちだった。

「新商品開発の難しさは自分も会社員時代の経験で知っていました。大きな組織の中で、デザイナーの強い意図を反映した“尖ったモノ”を作ることができるというのはすごいこと。この人たちとなら、きっとものづくりへの思いを共有して面白いことができるんじゃないかと思いました」

2023年1月に初めて出会った下村さんとマックス。2024年6月の「革のホッチキス」発売に向けて、1年半にわたる道のりがスタートした瞬間だった。

カバン制作で発生する「端材」を活用。
サステナブル仕様の「革のホッチキス」

カバーに革を使い、サステナブルな要素を取り入れた「革のホッチキス」。カバン職人の手作業で加工し、カバン産地・豊岡の魅力を発信する。大元となるコンセプトを共有した上で、下村さんを中心に制作作業が進められることとなった。

大前提として、カバーの革にはカバン制作の工程で発生する革の「端材」をアップサイクルし、限りある資源を有効に活用することに。「Maison Def」では、1枚革をパーツごとにカットしてカバンを制作する際に、4割ほどが端材として出るという。こうした端材は廃棄処分されることが多いが、下村さんはすべての端材を捨てることなく保管していた。

革に限らず端材を活用したものづくりがさまざまなジャンルで展開されるようになってきたが、下村さんはただ端材を使って安く作られたような商品ではなく、端材を使って新たな価値を生み出したいと考えていた。

「エルメスの『プティアッシュ』というブランドは、アトリエでの制作工程で出る端材をデザイナーの手によって新たなプロダクトに生まれ変わらせて高い評価を受けています。一流のメゾンに一流のデザイナーのエスプリが加われば、こんなに素晴らしいものが生まれるというお手本を彼らが見せてくれているんです」

端材で新たな価値を生み出したい気持ちから捨てずに保管されていた

サステナブルなものづくりの一つの到達点として下村さんが感銘を受けていた「プティアッシュ」は、「革のホッチキス」のコンセプトにぴったりと合致した。

ホッチキスの素体は下村さんとマックスをつなぐ縁となった「HD-10X」に。革は但馬牛の原皮を使った「神戸レザー」とフランス製の「トリヨンレザー」を採用。デザインのラフ案も決まり、いよいよ本格的に制作工程がスタートすることになった。

「トリヨンレザー」は入荷時期によって1枚1枚革の色や表情に微妙な違いが出る。「革のホッチキス」は当初5種類のカラーバリエーションで発売されるが、工業製品と違ってまったく同じ色や質感の商品にならない。当初のカラーラインアップから変更されることも想定されている。

「通常のホッチキスづくりと違って、どんな色合いのものが出てくるのかわからないというのは未知の経験でしたが、新しい取り組みだけに柔軟に対応していければと思いました」と、マックス担当者も意欲を見せた。

丹念な手作業の積み重ねで
納得のいく仕上がりを実現

5月中旬、カバンストリートにある下村さんの工房では「革のホッチキス」の最終仕上げが行われていた。パートナーとして制作作業を担当している依田 一人さんに制作工程を見せてもらうことに。

ホッチキスのカバーに使われる革は2枚重ねとなっている。寸法に合わせてカットしてから、コの字型のホッチキス素体部分に黒いヌメ革を貼り、その上から神戸レザーやトリヨンレザーの革を引っ張り込みながら貼り込んでいく。貼り込んだ後は断面に裁ち落としをかけ、磨いて仕上げる。1点1点、すべて手作業による工程だ。

制作中の依田 一人さん

「断面を美しく仕上げたいというのは、デザイン的なアプローチとして僕がずっと言い続けていたことなんです。断面の処理にはすごく手間がかかるんですが、そこはこだわりました」

断面は隠してしまう方が作業の手順はスムーズになるが、作業の負担が増大することになっても作り手として譲れない一線だったという。

ホッチキスカバーの底面に刻印を入れ、最後にリベット(留め具)を打ち付けて完成。
リベットは「Maison Def」のバッグでも効果的にデザインに取り入れられている。

「バッグを制作する際には360度、どの角度から見ても必ず金属が見えるように意図的にデザインしています。整然と並んだ金属がタイミング良く光を反射して、バッグのラグジュアリー感を高めてくれるんです」

最終仕上げの打ち合わせでは、刻印のデザインに合わせてリベットの位置を1ミリ単位で調整する場面も見られた。

「お客さまがバッグを見て美しいと感じるとき、その理由をはっきりと表現できなかったとしても、実はかなり細かい部分まで感覚的に気づいているものなんです。なんか素敵だとか、もうひとつしっくり来ないとか。ディティールの良し悪しで感覚的にプラスにもマイナスにも揺さぶられてしまう。そこには常に作り手として気を配らなければいけないと思っています」

マックスとのコラボで得られた経験を
今後のさらなる成長の糧に

1年に及ぶ制作期間を経て完成した「革のホッチキス」。下村さんにとって、今回のマックスとの共同作業はどのような経験をもたらしたのだろうか。

「通常の守備範囲ではない分野とのコラボレーションは、自分たちの引き出しを広げてくれる効果があります。こうした場数を踏んでいくことで経験値がすごく蓄積されますし、また何か新しいお話をいただいたときに、今回の経験が生かされると思います」

今まで手がけたことのない分野での制作は、まったくゼロの状態からのスタート。どのようにすれば上手く仕上げることができるのか、手探りの作業の連続だったという。

「どうすれば満足のいく商品を完成させられるのか、持てる限りの知恵を振り絞ってゴールにたどりつくことができました。その間、色々なことを考え、思い悩んだことが良い経験になったと思います」

カバン生産地としての豊岡市の今後への思いもいっそう新たになった。

「OEM生産をベースに発展してきた街なので、豊岡という場所からのクリエイティブな発信が十分に行われていないと思っています。たとえば、カリスマ的なメゾンブランドがこの街に存在するようになれば、生産地としての将来の可能性は大きく広がります。それは自分の世代を超えた長い時間軸で目指していく課題かもしれませんが、目標の実現に向けて動き続けていきたいですね」

下村さんはカバン職人のエキスパートの育成を目指す拠点となる「アパートメント」を運営。道具と場所をクリエイターに提供して、彼らの作品づくりも応援している。

左よりマックス高橋、下村さん、マックス石井

取材日:2024年5月16日
※Maison Defのアトリエ&ショップはこちら

下村 浩平さん

国内最大のカバン生産地・豊岡市のカバン店「Maison Def(メゾンデフ)」のオーナーデザイナー。福岡県春日市出身。2010年に豊岡市のカバンメーカーに就職。2017年に独立して工房を構え、2020年、カバンストリートに「Maison Def」をオープン。オリジナリティに溢れた作品世界を展開し、ファッション・インテリア業界からも注目されている。

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革のホッチキス

写真:該当製品の例
  • HD-10X/LT ベージュ/ホワイト
  • HD-10X/LT オレンジ
  • HD-10X/LT イエロー
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  • HD-10X/LT ブルー
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